「ZEBを標準入力法で計算しているのに、なぜわざわざ省エネ適判をモデル建物法で計算するの?」といったお問合せをよくいただきます。
省エネ適判を行う時にモデル建物法で計算を行う理由はこちらの記事で解説していますので、ご覧ください。
省エネ適判だけを行う場合はモデル建物法で計算して進める方が良い理由は分かったけれど、ZEBが絡むとなぜ標準入力法だけで進めてはいけないのか、その理由を解説していきたいと思います。
実際のところ標準入力法だけで進めても問題はないのですが、手間や時間、コストの面でモデル建物法と標準入力法の両方で進めた方が良いという結論に至りました。
ZEBと省エネ適判があるときの計算の進め方
ZEBと省エネ適判がある場合の作業は下記の流れで進めます(ケースによって変わるので参考の流れになります)
- STEP1ZEBをクリアするための設備の仕様を決める
標準入力法を使ってZEBの基準まで数値を下げる計算や検討を行います。
- STEP2BELSを使ってZEBの申請を審査機関に提出
自己採点よりは正式に審査を受けておく方がより確実にZEBをクリアできていることが担保されます。
このタイミングでは審査だけ受けておき、下ろすことはしません。
- STEP3省エネ適判用にモデル建物法で計算する
ZEBをクリアしている機器をモデル建物法に反映して省エネ適判用の書類をまとめます。
- STEP4着工後変更があった内容をモデル建物法の計算書と標準入力法の計算書に反映する
変更内容を反映して、基準を超えていないか確認しながら進めます。
- STEP5省エネ適判の変更申請を済ませて完了検査を受ける
省エネ適判は完了検査までありますので、変更があった場合変更申請が必要になります。
- STEP6ZEBを取得する
最終仕様で止めていたBELSを下ろしてZEBを取得します。
これを見ていると計算書がモデル建物法と標準入力法の2つ存在することになるので、手間もコストも増えるように感じるかも知れません。
しかし実際には標準入力法のみで進めるよりもコストは安くなり、時間も半分くらいで終わります。
完了検査前に時間的な余裕を持って変更申請を終わらせておくという事ができる現場は問題無いかも知れませんが、多くの場合は時間的な余裕はなくギリギリまで設備が変わってしまう可能性をはらんでいるのではないかと思います。
どちらにしても変更申請をしている最中に追加の変更があってはややこしさが増します。
費用的にもメリットがあり、計算も審査も早く終わる。
それなら例えZEBを取るために標準入力法で計算していてもモデル建物法で省エネ適判を進めておくメリットは大きいのではないかと私は考えます。
BELSは審査を受けても最終仕様まで下さないようにしておけば変更申請の費用がかかりません。
(審査機関によって異なる可能性もありますので、提出先の審査機関にご相談ください)
コストを計算してみた(適判:モデル建物法/ZEB:標準入力法)
実際にコストを算出して比較してみたいと思います。
想定されるのは下記の3パターンかなと思います。
コストは省エネ計算も外注する場合の金額と審査機関の審査手数料です。
建物の用途を含めた算出条件を下記にまとめます。
以上の条件を基にそれぞれの費用を出してみましょう。
①省エネ適判をモデル建物法、ZEBを標準入力法で取得する場合
合計:1,025,000
内訳
- 省エネ計算費用(モデル建物法と標準入力法)
- モデル建物法の計算費用 170,000
- 変更申請 50,000
- 標準入力法の計算費用 370,000
- 省エネ適判に関する審査手数料(確認審査下付まで)
- 130,000
- 省エネ適判の変更申請に関する審査手数料
- 65,000
- BELS申請に関する審査手数料
- 240,000
②モデル建物法で省エネ適判とZEBが取得できる場合
合計:536,000
内訳
- 省エネ計算費用(モデル建物法)
- 170,000
- 変更申請 50,000
- 省エネ適判に関する審査手数料(確認審査下付まで)
- 130,000
- 省エネ適判の変更申請に関する審査手数料
- 65,000
- BELS申請に関する審査手数料
- 121,000
標準入力法で省エネ適判とZEBを取得する場合
合計:1,084,000
内訳
- 省エネ計算費用(標準入力法)
- 370,000
- 変更申請 145,000
- 省エネ適判に関する審査手数料(確認審査下付まで)
- 219,000
- 省エネ適判の変更申請に関する審査手数料
- 110,000
- BELS申請に関する審査手数料
- 240,000
計算方法の種類
省エネ計算には「モデル建物法」と「標準入力法」の2つたの計算方法があります。
モデル建物法は簡易的な計算方法で、建物用途の特徴的な部屋の特定の機器を対象として計算を行います。
そのため、低コスト・短納期で進めることができます。
それに対して標準入力法は詳細な計算方法で、全ての部屋の機器を対象に計算を行います。
部屋や機器の数だけ計算に入力していく作業が発生するため、時間やコストが高くなります。
モデル建物法に比べると時間も費用も1.5倍から2倍くらいのイメージです。
ただ、細かく入力していくぶん、正確な計算結果が出てくるので、モデル建物法より計算結果が良くなる傾向があります。
この様にモデル建物法と標準入力法にはそれぞれ特徴があり、目的に合わせて使い分けていく必要がります。
ZEBを標準入力法で行うメリット
ZEBを標準入力法で行うメリットは数値を下げる検討がしやすいことにあります。
モデル建物法でもZEBを取ることはできます。
ただし、最初の計算結果が限りなくZEBの基準に近いか最初からクリアしている場合に限るといっても過言ではありません。
モデル建物法は用途によって計算で使える機器が決められていて、入力に使った機器の中で数や性能の調整を行わなければなりません。
さらに簡易的な計算方法である分、計算結果が悪く出る傾向にもあるため、数値を下げるという作業には向いていない計算方法になります。
時間や手間暇をかけられるのであれば、先述した計算作業の流れをモデル建物法で計算してダメだったら標準入力法で計算し、その検討結果をもう一度モデル建物法に反省するというように組み替えても良いかもしれません。
もしくは過去にモデル建物法でZEBをクリアしたことのある仕様であれば可能性は上がりますが、そうでない場合、一番コンパクトで効率的なのは標準入力法でZEB取得のための計算や検討を行っていく流れになると思います。
省エネ適判をモデル建物法で進める理由については別の記事で解説していますので、そちらをご覧ください。
過去の実績を基にお話しすのであれば、モデル建物法でZEBをクリアする確率はかなり低いので、上記のケースを除いては、ZEBは最初から標準入力法で進めることをお勧めしておきます。
まとめ
モデル建物法だけでZEBも適判も進められるのであればそれが一番です。
しかし、標準入力法だけでZEBと省エネ適判を進めるのはコストも高くなり時間も手間も増え業務を圧迫します。
そのため、ZEBと省エネ適判がある場合はモデル建物法と標準入力法の両方で計算を進めていくのが最適解になるのではないかと思います。
色々なケースがあるかと思いますので一つの考え方として、みなさんの業務の参考になれば幸いです。