建築物省エネ法では増改築においても、省エネ基準の適合義務や行政庁への届出義務が設定されています。
増改築の場合、適用される義務や省エネ基準が既存部分の建築時期や増築後の建物の規模によって異なるため、新築と違い少し複雑な判断が必要になっています。
また、非住宅用途なのか、住宅用途なのか、はたまた住宅と非住宅の複合用途なのかによっても異なるため、審査機関や行政庁の担当者でもその判断を間違うことがあります。
来年度以降はシンプルな判定フローになる様ですが、今年1年はその判定フローに振り回されることが度々起きそうな予感がしています。
増築物件で必要になる省エネ法の手続きと見分け方
増築物件の省エネ適判では、既存部分の建築時期や増築面積の割合で省エネ法の手続きが変わります。
非住宅の増改築部分だけで300㎡を超える時には省エネ適判か省エネ届出のどちらかに該当する可能性があります。
非住宅の増改築部分が300㎡を切っていても住宅部分の増改築と合わせて300㎡を超えていると省エネ届出が必要になる可能性があります。
非住宅部分も住宅部分もそれぞれで300㎡を超えていると、省エネ適判と省エネ届出の両方が必要になります。
判定フローが公的機関から出ていますのでこちらを参考にしてみてください。
私の方でも簡単に判定できるWEBアプリを作ってみたので、下記にご紹介しておきますね。
省エネ法手続きの自動判定WEBアプリ(無料)
既存部分と新築部分の建築時期や延べ床面積などの情報を入れるだけで、必要な省エネ法の手続きを瞬時に判定してくれるWEBアプリを作ってみました。
こちらは公式のものではないので、計算結果を保証するものではありませんが、当たりだしや参考にはなると思うのでぜひご活用ください。
増築物件の省エネ計算の進め方は既存部分の建築年度で変わる
増築物件の省エネ計算の進め方というのは、既存部分がどう扱われるかによって変わります。
その分類は下記の様に大きく5つのケースに分けることができます。
ケースの分類 | 既存部分の建築時期 | 増築部分の建築時期 |
---|---|---|
ケース① | 2016年4月1日より前 | 2025年4月1日より前 |
ケース② | 2016年4月1日〜2017年3月31日 | 2025年4月1日より前 |
ケース③ | 2017年4月1日〜2024年3月31日 | 2025年4月1日より前 |
ケース④ | 2024年4月1日〜2025年3月31日 | 2025年4月1日より前 |
ケース⑤ | 建築時期不問 | 2025年4月1日以降 |
下記の記事にある判定フローを使えば簡単にどのケースに当てはまるかが判定できます。
これらの情報は建築研究所から出ている下記の資料をもとにケースを分類するために必要な要素を抽出してわかりやすくまとめたものです。
適合基準や適合義務に該当するかどうかの情報も載っていますが、それらは分けて考えた方がわかりやすいと思います。
ちなみに、適合義務に当たるかどうかは先に触れた判定フローや自動判定フォームを使って出して貰えばOKです。
どんな基準に適合させる必要があるのかについては、この後にわかりやすく図にまとめてありますので、そちらを参考にしてみてください。
増築物件の省エネ基準
建築研究所から出ている資料の抜粋と、数値だけをまとめた表を作ったので載せておきますが、下の方に分かりやすく作り直した表も掲載していますので、そちらも合わせて参考にしてみてください。
計算の進め方は大きくわけると、既存部分も図面や資料を用意して省エネ計算をするケースと既存部分の計算結果に建築年度で決められた規定値を用いるケースに分けられます。
既存部分も計算すると、省エネ基準をクリアするための検討はしやすくなりますが、審査の時間やコストがその分追加でかかってしまうのと、完了検査の対象にもなります。
省エネ基準に関する詳しい解説はこちらをご覧ください。
デメリットの方が大きい感じがしますね。
ではケースごとで必要になる省エネ基準などを見ていきましょう。
ケース①
ケース①では建物全体での基準クリアが必要になります。
既存部分の計算結果は規定値の1.2として、増築部分の計算結果と面積按分をして適合基準の1.1をクリアすればOKです。
ケース②
ケース②では建物全体での基準クリアが必要になります。
既存部分の計算結果は規定値の1.1として、増築部分の計算結果と面積按分をして適合基準の1.0をクリアすればOKです。
この時期に該当する建物では省エネ適判が不要となることもありますので、判定フローで確認し進める様にしましょう。
省エネ適判が不要となった場合でも所管行政庁への届出は必要になる可能性があります。
その際には物件の状況(増築の割合が小さいため建物全体で省エネ基準をクリアできない)によっては協議を行うことで、増築部分だけ省エネ基準をクリアすれば良いとなるケースがあります。
ケース③
ケース③では建物全体での基準クリアが必要になります。
既存部分の計算結果は規定値の1.1として、増築部分の計算結果と面積按分をして適合基準の1.0をクリアすればOKです。
ケース④
ケース④では建物全体での基準クリアが必要になります。
既存部分に期待値を用いることが出来ません。
既存部分が300㎡以上の非住宅の場合は省エネ適判の計算書があるのでそれを利用します。
それ以外のケースでは既存部分も計算と完了検査が必要になります。
建物全体で2,000㎡を帰る場合には、新基準が適用されるので注意が必要です。
2,000㎡以上の非住宅に適用される新基準については下記の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
ケース⑤
ケース⑤は2025年4月以降の増築になるので、増築部分のみのが省エネ基準に適合していればOKとなります。
2,000㎡未満では適合基準1.0をクリアすればOKですが、2,000㎡以上の建物では新基準のクリアが必要になります。
2,000㎡以上あるかどうかの判断は、増築部分のみの延床面積で判断します。
現場事例紹介
所管行政庁に出した既存建築物の省エネ届出は増改築の省エネ適判で使えるか?
結論から言うと、行政で審査され下付された省エネの計算書は行政で受ける省エネ適判でしか使えません。
なので、既存部分が建築当時、省エネ届出に該当して、行政庁に届け出をして役所の印のある書類が残っていても、増築時に省エネ適判に該当して民間の審査機関に出す場合は、もう一度その審査機関で既存部分の審査も受けなければなりません。
審査を受けた部分は、既存部分も増築部分も完了検査時に検査が実施されます。
なんだか分かりにくくて、面倒な感じがしますね。
この部分だけ、具体的な事例をもとに解説した記事を作りましたので、こちらをご覧ください。
上の記事にも書きましたが、既存部分は用意された規定値を使って、増築部分だけの計算で基準をクリアできるのがやはりベストですね。
ただ、増築部分が既存部分よりも極端に小さいとその方法で省エネ基準をクリアできなくなります。
それは、既存部分の規定値と増築部分の計算結果を面積按分して建物全体のBEIを出すので、増築部分が小さいと、計算した結果が全体に及ぼす影響が小さくなってしまうためです。
さらに、増築後に2000㎡を超えると省エネ基準が1.0よりも小さくなるのでそのハードルはますます高くなります。
新基準のクリアが難しい建物用途しては、大きな工場や倉庫、照明の多く明るいクリニックや遊技場などが現在問題に上がっています。
機会があればこのあたりも解説していけたらと思っています。
まとめ
上手く理解していただけましたでしょうか?
増築の案件は審査機関や行政でもミスジャッジをしてしまう事があるくらいややこしい仕組みになっています。
2025年になれば、非住宅は増築部分だけの評価でよくなります。
今年1年が1番ややこしく、2,000㎡以上の物件には厳しい基準となります。
どう進めていくのが最適なのかをしっかりと検討して、計画そのものも見直していく必要があるのかなと思います。
そのきっかけや参考になれば幸いです。
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